超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

昨日

 脳天につまようじを刺した試食用の俺たちが、体育座りでスーパーの床に並んでいる。大声を張り上げる試食担当のおばさん。虚空を見つめる試食用の俺たち。おばさんの頑張りもむなしく、誰も試食用の俺たちを試食してくれない。一瞥するだけで通り過ぎていってしまう。本物の俺は陳列棚の中から、その様子をじっと眺めている。ふいに試食用の俺の一人と目が合う。互いに意味もなくニヤリと笑う。笑った後に目を逸らし、互いに聞こえないようにため息をつく。そんなやりとりなんかつゆ知らず、大声を張り上げる試食担当のおばさん。虚空を見つめる試食用の俺たち。通り過ぎていく買い物客。永遠とも思える長い時間を、俺は窮屈な陳列棚の中で過ごしていた。そんなところです、昨日の俺に関しては。