超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 理科準備室を掃除していると、一番奥の棚の隅に、不思議な色の液体が入ったビーカーを見つけた。ビーカーのラベルには、理科の先生の奥さんの名前が書かれていた。「振ってごらん。軽くね」いつの間にか理科の先生が斜め後ろに立っていて、僕に言う。先生はにこにこ笑っていて、僕はその笑顔に何か不吉なものを感じる。だが、言われた通りにしないと理科の成績や内申書が悪くなるかもしれないと思い、しぶしぶビーカーをゆっくり振ってみる。すると、中の液体が揺れながらほのかに光りはじめた。柔らかくあたたかい光だ。「おかしいな」と背後で先生が呻いた。振り返ると、先生が明らかに悔しげな表情を浮かべていた。ビーカーの中の液体が熱を発しはじめている。通知表と内申書という言葉が頭の中をぐるぐる回っている。