超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

持つところ

 昔、近所に住んでいたお姉さんが弾くピアノの音には、「持つところ」がついていた。お姉さんの家によく遊びに行っていたぼくたち兄妹は、「持つところ」に指を引っかけてピアノの音をつかまえては、帽子のつばにぶら下げてみたり、指で弾いてその音色を楽しんだりしたものだった。それが当たり前だと思っていたから、小学校に上がって、先生が弾くピアノの音に「持つところ」がついていないこと、そしてそれが普通だということにとても驚いたものだった。お姉さんはいつの間にか引っ越していなくなってしまったけど、今頃どうしてるのかな。「持つところ」がついているピアノの音、に心当たりがある人は教えてください。