超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

目医者の奥さん

 目医者の奥さん、自転車のカゴに、畑で採れた目玉をたくさん詰めて、爽やかに走っていく、こんにちはあ、と声をかけると、目医者の奥さん、わざわざ自転車をとめて、いい天気ですねえ、と満面の笑みで、その笑みにどこかいつもと違うものを感じたので、何かいいことでもありましたか、と訊いてみると、ええ、実はその、妊娠がわかりまして、と目医者の奥さん、照れくさそうに答えた、その瞬間、自転車のカゴの中の目玉たち、一斉にグルリと向きを変え、目医者の奥さんをギョロリと睨んだ、中には血走っているものもある、のを見てしまった、ので、口では、まあああそれはそれはおめでとうございますううう、と言いつつも、頭の中では、そうそうそうそうそういえば目玉の畑には一体誰が埋められていたんだっけ確か奥さんの……、とわくわくしながら記憶を掘り起こしていた。