超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

隣の音

 休日の朝だというのに、アパートの隣の部屋から、かれこれ一時間近く、まな板を包丁で叩く音がトントントントン鳴り続けている、どんな料理を作っているのか知らないが、さすがにイライラして、一言言ってやることにした、「すいませーん」、ドアチャイムを鳴らしてそう声をかける、と、包丁の音はやまないまま、女の声が返ってきた、「どちら様ですかあ?」「隣の者なんですけど」「あ、はあい?」「料理の音、ちょっと気になるんですが……何とかなりませんか?」「料理?」「はい、何か、まな板、トントン……」「あ、これは料理じゃなくてえ、しつけなんですよお」そう言って女は明るい声で続けた、「すいませえん、なるべく早くいい子にさせますのでえ、ちょっとだけ待ってていただけますかあああああ?」、ドアの向こうで、包丁の音がより一層高く響いた。