超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

しおりひも

 いい本だった……とおもわずつぶやくと、本のしおりひもがまるで犬のしっぽみたいにじゃれてきた、いなかの図書館のよく陽のあたる席でのことだ、背表紙をなでてやるとペラペラと心地よい音をたててページがめくれた、借りて帰ろうと思ったが、よく見ると「貸出禁止」のスタンプがおされている、そういえば、こんなにいい本なのに、目立たない隅の棚の隅の場所にしまわれていたな、首をかしげていると、すぐ近くを通りかかった司書さんが「甘やかすとはしゃいで乱丁しちゃうんですよ」とそっと教えてくれた、なるほどそれなら仕方ない、なごりおしい気持ちで本を暗い棚の中へ戻す、しおりひもが指にからみつき、恋人とベッドの中で手をつないでいる時のように甘えてくる、ため息とともに司書さんがしおりひもを私の指からひき剥がしてくれる、図書館を出ると、いつの間にか夕方になっていた、いい本だった……と誰に言うでもなくつぶやいてみた。