超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

はらわた

 釣り針にかかった魚はすでにはらわたが食いちぎられていて、そのかじった跡には真っ赤な口紅がついていた、古参の漁師に見せてみると、彼は、あっ、と小さく驚いたあと、苦笑いを浮かべ、そういや、派手好きな女だったからなア、と言ったきり黙ってしまった、仕方がないのでその魚を釣り針から外し、海へ投げると、魚はくるくると不思議な軌道を描いて海底へと沈んでいった、その夜、件の老漁師の家からは、一晩中線香の香りが漂っていた。