超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

まりも

 ある時から月は欠けるのをやめ、周りの星々を取り込みながら、まりものように膨らんでいき、やがて夜空一杯の大きさになった頃、ふいに地球にぷいと背を向けどこか遠くへ行ってしまった、まるまる肥えた月の傍らには風呂敷包みが一つあり、その中には地球で一番綺麗な水で育った一番綺麗な花の種が詰められていたということだ、その後、真っ暗になった夜空を見上げながら、人々は、また鳥は、また犬や猫や鹿や鈴虫や魚たちは口々に、月と何があったの、月はどこへ行ったの、と地球にさんざん問いかけたが、地球はむっつり黙り込み、ただ一番高い山のてっぺんに、萎れてよれよれになった一輪の花を咲かせただけだった。