超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 死期がすぐそこまで迫ってきているこの毎日、もっぱらの楽しみは、病院近くの公園に行って、シャボン玉を膨らませて遊ぶこと、子どもの頃から勉強ばかりで、こういう当たり前の遊びを全然してこなかったから、こんなものが新鮮で楽しくて仕方ない、ただ一つの不満は、死期の近い人間の吐いた息を詰め込んだシャボン玉は、ストローの先からちぎれたあと、空に浮かばず地面を転がってしまう、ということだ、そのことはみんなわかっているようで、公園に来た人々は遠巻きに私のことを眺めつつ、ひそひそと何か話し合い、私と私のシャボン玉の周りには決して近寄ろうとしない、それがとても寂しい、今日はこんなことがあった、いつものように公園でシャボン玉を地面に転がしていると、散歩に来た犬がそれを見つけて駆け寄ってきて、飼い主が必死に止めるのもきかず、おそるおそるといった様子で、前脚の爪でシャボン玉を砕いた、その瞬間、青い煙のようなものがふわっ、と立ちのぼり、犬はそれを吸ってカハッ、と小さく咳をした、飼い主は私を睨みつつ犬を引っ張っていき、公園にはシャボン液の跡をぎらぎら光らせる午後の日差しだけが残された、犬の身を案じつつうつむくと、シャボン液に映った私の顔が歪んで、まるで卑屈に笑っているように見えた。