超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ハミング

 お風呂場の外壁のすぐそばにあるもぐらの穴からハミングが聞こえてきた、中でもぐらが歌っているらしい、珍しいこともあるものだ、と二十分くらい聴いていたが、全部心当たりのある歌だった、どころか私の好きな歌ばかりだった、ああ、そうか、私が毎晩お風呂入りながら大声で歌っているからか、そういうことか、覚えちゃったのか、これはしばらく控えよう、歌うもぐらとして誰かに捕まったりしたら大変だ、いやもう遅いか覚えちゃってるもんな、もういっそ飼うか、このもぐら、いやでももぐらって飼うの難しそう、ああもうどうしよう、気づいたらモグラのハミングに合わせて歌を口ずさんでいた、塀の向こうを近所のおばあさんが不思議そうな顔で通り過ぎていった。