超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

どしたの

 夜、眠りかけた頃、居間の方からオルゴールの音が聞こえてきた。ベッドから出て居間をそっと覗くと、もう眠ったと思っていた飼い犬がまだ起きていて、オルゴールにじっと聴き入っていた。よくあるクラシックの曲だが、捨て犬だったのを拾ってきた犬だから、あの曲に、捨てられる前の思い出が色々とあるのかもしれない。「どしたの」そう声をかけながら背中を撫でると、飼い犬は照れたように、ピンと立っていた耳を前足でふさいだ。