超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

熱燗

 冬の夜だ。かくべつに寒い冬の夜だ。熱燗を一本つける。軽く足踏みをして寒さを紛らす。息が白い。ふと窓の外の夜空を見上げる。満月が出ている。が、なんだかやけにもこもこしている。目をこらすと、月はまん丸のセーターとニット帽を着込んで、俺と同じように白い息を吐いていた。その吐く息がいちいち星屑に変わる。美しい。その美しいのが少し可笑しい。空の上はこっちより寒いのだろうな。ちょっと不憫だ。ああ、もういいだろう。熱燗を取り出す。ふと窓の外から視線を感じる。月が俺の熱燗をじっと見つめている。何だよ。やらねえぞ。