超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

目薬

 昔、美術館でアルバイトしていた時、閉館後、展示室の掃除や見回りをしていると、額縁の中から「目薬持ってきて」と頼まれることが多かった。何しろ一日に何十何百もの来場者の顔を眺めなければいけないので、ずいぶん目が疲れるのだそうだ。その中でも特に何度も目薬を要求してきたのは、夕暮れの丘で遠くを見つめている爺さんだったが、その爺さんの真向かいの壁にははちきれんばかりのおっぱいをつけてこちらを見つめる人妻がいたから、たぶんあの爺さんだけは理由が違っていたんだと思う。俺がスケベだからそう思うのかもしれないけど。