超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

リズム

 夜、近所の汚い野良猫が、ゴミ捨て場の前でうるさく鳴いていた。何かいるのかと思い、ゴミ捨て場をのぞき込むと、野良猫の前に、もう壊れて動かないのであろう、シンバルを持った猿の玩具が転がっていた。

 ニャ、ニャー、ニャーニャ。
 ニャ、ニャー、ニャーニャ。

 よく聞いていると、野良猫は一定のリズムとメロディーを保ちながら鳴き続けている。何かピンときて、猿の玩具の背中にあったぜんまいのねじを巻くと、猿は最後の力を振り絞るようにシンバルを叩き始めた。

 ……カシャッ。……カシャッ。
 ……カシャッ。……カシャッ。

 やがてその音は猫の鳴き声と響きあいはじめた。

 ニャ、ニャー、カシャッ、ニャーニャ、カシャッ。
 ニャ、ニャー、カシャッ、ニャーニャ、カシャッ。

 そういえば、この野良猫、昔はちゃんと首輪を付けていたような気がする。こいつら、同じ家に捨てられたのかもしれない。やがて猿の玩具が動かなくなると、野良猫も鳴くのをやめ、とぼとぼと夜の闇の中へ歩き去っていった。尻尾だけはさっきのリズムでかすかに揺れていたが、それもすぐに見えなくなった。