超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

歯ブラシ

 歯ブラシを口にくわえようとして、ずいぶんぼろぼろなことに気づいたが、すぐに捨ててしまうのももったいない気がした。何か磨くものでもないかと家の中をうろうろしていた時、ふと、窓の外の満月が目に入ったので、窓を開け、月を磨き、ウサギの餅つきに見える例の模様を、よりウサギの餅つきに見えるようにちょっと工夫してみた。よくよく見なければわからないくらいの微々たる変化だが、自分としては満足したので、心おきなく歯ブラシを捨てることができた。その夜、夢の中に歯ブラシが出てきて、「心臓に悪いのでああいうことはやめてください」と叱られた。歯ブラシの心臓ってどこだろうと思った。