超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ずいぶん小さくなって

 よろけた足取りで、音楽室のピアノの鍵盤の上を誰かが歩いている。あれは去年亡くなった音楽の先生だ。ずいぶん小さくなって。
 酔っているらしい。寡黙でおとなしかった面影はどこへやら、どこかの方言で、猥褻な歌を高らかに歌い上げながら、鍵盤をめちゃくちゃに踏みつけている。
 歌が終わると大声で笑い、笑っているうちに黒鍵につまずいて、その拍子にカツラが外れた。うすうすそうじゃないかな、と思っていたが、こんな形でバレるとは。
 いたたまれなくなりそっと鍵盤の蓋を閉めると、中からすすり泣きが聞こえてきた。