超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

涼しい風

 気がつくと、消しゴムくらいの大きさになっていた。
 窓辺に腰かけて、口笛をふいていた。
 蝶が一匹、目の前を通り過ぎていった。
 真っ白な羽が優雅に動くたび、全身にすずしい風を感じた。

 気がつくと、電信柱くらいの大きさになっていた。
 公園の真ん中に突っ立って、夕日を見ていた。
 カラスが一羽、頭の上にとまってカーカー鳴いていた。
 鳴き飽きたカラスが飛び立ったとき、つむじに涼しい風を感じた。

 気がつくと、元の大きさに戻っていた。
 病院のベッドの中で、おばあちゃんの手をにぎっていた。
 おばあちゃんは窓の外を見ながら、静かにぼくをうちわであおいでいた。
 ぼくが目を覚ましたのを見て、おばあちゃんは誰かを呼びに行った。

 涼しい風はやんでしまった。