超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

用務員の日記

 雨もないのに花壇の花が濡れている。見上げると、校舎の三階あたりに女の生首が浮いていて、手入れしたばかりの花壇を見ながらぽろぽろ涙を流していた。こんなに立派な花壇なのに、何を泣くことがあるのだろう?それともこんなに立派な花壇だから思わず?だとしたら照れるが。いや、それともぜんぜん別のことで?ともかく生首の涙の理由がわからない。そこで、おおい、と呼びかけると、生首ははっとした顔になり、霧のように消えてしまった。しまった。一番高い脚立を使ってでも、捕まえればよかったかな。そうすりゃ用務員室で茶の一杯でも出しながら、ゆっくり話を聞けたのに。俺なりに丹誠込めて手入れしてきた花壇だ。ちょっとくらい祟られてもいいから、花壇見て泣いてる理由を聞かせてほしかった。