超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

フキダシ

 からっぽのフキダシを
 両手で揉みながら
 公園のベンチにおじいさんが
 うつむいてこしかけている

 もう何も言うことがなくなってしまった
 かわいそうなかわいそうなおじいさん
 少し
 長く生きすぎてしまって

 しわだらけの掌の中で
 フキダシが柔らかく崩れていく
 遠くのベビーカーの中で
 赤ん坊がけたたましい泣き声をあげる