超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

カメレオン

 夕日の色したカメレオンが、夕日の中からのそのそ現れ、遠くに見える山の向こうに、遠くの山の色に変わりながらのしのし去っていった。ぼくらの町のカメレオンが、今日もひなたぼっこを終えたようだ。山の向こうから、わずかな地響きを足の裏に感じる。一瞬で生長し一瞬で朽ちていく大樹のように、山の色した長いしっぽが時々、山の向こうから出たり引っ込んだりしている。気に入ったものなら、どんなに大きなものでも、どんなに小さなものでも、複雑な色のものにも、色のないものにも、好きな場所に、好きなものに身を潜ませることができる、ぼくらの町のカメレオン。なぜか夕時のあのひなたぼっこだけは欠かさない、ぼくらの町のカメレオン。明日はどこで会えるだろうか。眠りに落ちる前、布団の中でぼくは考える。雲か、駅舎か、果物売り場か、教科書の中の焼け野原か、もしかしたら鏡の中のぼくに擬態しているかもしれない。そして夕時に思いがけない場所からぬっと現れて、夕日に向かって歩いていくんだ。たくさんのわくわくと一抹の不安を抱きながら、ぼくは目を閉じる。今頃ぼくらの町のカメレオンは、山のてっぺんで、流れ星に向かって舌を伸ばしていることだろう。