超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 明日も仕事なのになぜか寝付けないので、気分転換にベランダに出て煙草を吸っていたら、しんと静まりかえった深夜の交差点で、四本の信号機たちが、鬼ごっこをして遊んでいるのが見えた。三色のライトを笑うように点滅させながら、細い支柱をしなやかに曲げ、ぴょんぴょん飛び跳ねて追いかけあっている。タッチされそうになると、青から黄色、赤とパパパッ、と色が変わり、無事によけると、再び青色に戻る。実に楽しそうだった。

 混ざりたいなぁ。

 そう思った直後、交差点に、遠くからトラックが近づいてくるのが見えた。信号機たちは慌てて元の位置に戻り、いつもの仕事を淡々とこなした後、トラックが走り去ったのを確認して、一斉にその場に崩れ落ちた。一本の信号機が内緒話をするように黄色のライトを瞬かせると、その他の三本が忍び笑うように身をよじらせた。実に楽しそうだった。

 混ざりたいなぁ。

 混ざりたいけど……。溜息とともに煙草の煙が吐き出される。

 俺、あんな風に光れないもんなぁ。

 信号機に楽しいね、って伝えるのに、きっと言葉じゃ力不足だろう。

 むなしい気分で、煙草をもみ消し、布団に戻った。それでも何となくあきらめきれず、試しに、布団の中で、何度かまばたきをしてみたり、口を開けながら喉を叩いてみたり、寝間着を捲ってへそをつついてみたり、普段の信号機のように体を硬直させてみたりしたが、いっこうに光は点かなかった。

 きっと、こういうことじゃないんだろうな。

 どっと疲れてしまい、むなしい気分で呼吸を整えていると、遠くから、再び車が交差点に近づいてくる音が聞こえてきた。そしてそれが遠ざかると、今度は鉄の棒が軽く軋む音が。もうぎゅっと目をつぶり、ふて寝するしかなかった。