超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

細胞

 煙草に火を点けようとしたが、ライターから現れたのは、炎のように赤い一匹の金魚だった。
 金魚はからかうように俺の鼻先を尾びれでさっと撫で、こともなげに空へ昇っていった。
 見上げると、頭上遙か高く、陽の光がまるで何かの細胞のような、ぶよぶよとした塊になって、いくつも揺らめいていた。
 光の中へ吸い込まれていく金魚のシルエットを見つめながら、この池で溺れ死んだことをふいに思い出した。