超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

目覚め

 目覚めると猛烈に腹が減っていたので、部屋の隅に放られていただるだるのジャージに袖を通し、サンダルを突っかけて、牛丼でも食いに行くことにした。

 家の前の道を右左どちらに行けば牛丼屋に近いのかがわからなかったので、ひとまず右に行くと、先の方が、濃い霧でも出ているのか、真っ白で何も見えない。おそるおそる進んで行くと、たどり着いた何もない広場のような場所の真ん中に、看板が立てられていた。
 看板には、羽根ペンの隣で白髭の爺さんが謝っているイラストが描かれていた。どうやらこの先がまだ書き上がっていないらしい。

 まぁ、どちらにせよ、羽根ペンで書かれるような土地に牛丼屋があるとは思えないので、今来た道を引き返し、今度は左に向かっていくと、たどり着いた場所は工事用の三角コーンで塞がれていて、その向こうにもうもうと煙が立ちこめていた。
 砂埃かと思いよくよく目をこらすと、それはパイプの煙で、その煙の中ではブルドーザーほどもある巨大なタイプライターが、せわしなくがちゃがちゃと動き回っていた。
 こちらは先が少し書き進められているらしく、うっすらと摩天楼のようなものが見えたが、おそらくあそこにも牛丼屋はないだろうと思われた。

 どうやら俺は目覚める場所を間違えたようだ。