超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

始発

 珍しく朝早くからの仕事が入り、眠い目をこすりつつ始発電車に乗り込むと、車内に木琴の音が響いていることに気づいた。発車のベルだろうか。それにしてはやけにぼんやりしたメロディだ。音のする方に目をやると、隅の席に、月が深く身を沈め、泥のように眠っていた。木琴の音に聞こえたのは、月のいびきらしい。
 そっと近づいてじっと眺めてみる。夜通し夜空に浮かんでいるというのは、なかなか骨の折れることであるようだ。月面にうっすら青髭が浮かんでいた。が、もしかしたらそれは青髭ではなく、兎に見える例の模様なのかもしれなかったが、俺には区別がつかなかった。
 まぁ、何にせよ、おつかれ、いつもどうも。