超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

沈める人

 夕暮れの空に、街に、耳に、たくあんをかじるような音が、ぽりぽり響いている。
 その音が聞こえるたびに、丸い夕日がちょっとずつ、地平線の下へ、ちょっとずつ、沈んでいく。

 ぽり、沈む、
 ぽり、沈む。
 ぽり、沈む、
 ぽり、ぽり、沈む。

 祖母が言うには、昔、夕日は音もなく、すーっと沈んでいったものなんだそうだが、最近ではもう、沈める人も、だいぶトシらしい。

 ……ぽりっ。

 ようやく訪れた夜の空に、震える月が昇り始めた。