超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

夢と夜風

 深夜、一人酒の酔い覚ましにベランダで涼んでいると、誰かの見ている夢が夜風にこんがらがったまま低空を漂っているのを見つけたので、何気なく手を伸ばしたら、捕れてしまった。

 捕れてしまったのはいいけど、これは……何の夢を見ているのだろう。
 掌の中の夢は、生まれたばかりの惑星のようにも、苺のすごいやつのようにも見えた。
 からからに乾いているのに少し温かい。
 幸せな夢を見ているのだろうな、と何となく感じた。
 指先でくすぐったり軽く揉んだりしていたら、遠くでどこかの子どもがくしゃみをしたのがわかった。

 ひとしきり夢をからかった後、そっと夜風に戻し、それから、窓をしっかり閉めて眠った。
 その日は好きな人にふられたばかりで、とんでもない夢を見てしまいそうだったから。