超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

旅人

 台所に面した窓の向こうを、カタツムリのようなものがのろのろ這っていた。
 よく見るとそれはカタツムリではなく、風呂敷包みを背負ったナメクジだった。

 家出なのか、
 放浪なのか、
 泥棒なのか。

 あれこれ詮索しながら眺めていたらふいに目が合ったので、からかうつもりで手元にあった塩の小瓶を構えると、ナメクジが、
「もういっそ殺してくれ」
 みたいな顔で、寂しく笑った。

 思いもよらなかった反応に戸惑っているうちに、ナメクジはいつの間にか姿を消していた。
 かんかん照りの陽の光が、アスファルトに陽炎を作っていた。