超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

サムライ

 満員の通勤列車の網棚の上に、大蛇が横たわっていて、お腹が、おっさんの形に膨らんでいた。
 後ろの車両へ行くほど、大蛇は細いので、前の車両に頭があって、それにおっさんが呑まれたのだろう。

 なぜ腹の形だけで、おっさんだとわかったのかというと、それは俺もおっさんだからだ。

 知っているおっさんだったら嫌だな、と思って、携帯のアドレス帳に入っているおっさんに、片っ端からメールを送ってみた。
「元気?」
 とか、そんなやつを。

 六人目のおっさんにメールを送った直後、もうすっかり平たくなっていた大蛇のお腹の中から、携帯の着信音が聞こえてきた。
「サムライ」だった。
 ジュリーの。

 通勤時間を、貴重な睡眠に充てているらしい若い姉ちゃんが、迷惑そうな咳払いをした。

 六人目のおっさんが、ジュリーとか聴きそうかどうか考えていたら、いつもの駅を乗り過ごしていた。