超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 冷蔵庫のドアポケットに卵が十個納まっているが、
 どれが私の買ってきたもので、
 どれが冷蔵庫の産んだものなのか、
 わからなくなってしまった。

 印でもつけておけばよかった。
 うかつに食べると、
 この間みたいに、
 お腹を冷やしてしまう。

 お腹を冷やすのは、
 困る。
 冷蔵庫だって、
 せっかく産んだ卵を食べられるのは困るだろう。

 む゛ぅぅぅん、
 と冷蔵庫が低く唸った。
 私も負けじと唸り返してみたが、
 いい案は出なかった。

 結局その日は何も食べずに寝てしまった。
 明日、電気屋さんに頼むことにした。
 すきっ腹をさすりながら、
 オムレツや茶碗蒸しのことを考えてよだれが止まらなかった。

 止まらないよだれを必死に止めながら、
 そういえば、
 ニワトリはどんな気持ちなのかな、
 と少しだけ思った。

 む゛ぅぅぅん。