超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

痒い

 私の恋人の髪の色は、
 菫色にも、
 深い青にも、
 墨色にも見えて、
 つまり、夜の色をしていて、
 時々何か青白い光が、
 髪の中でちらついているのが見えるので、
 この間どうしても気になって、
「それ何?」
 と訊いたら、
 恋人は髪の中に指を突っ込んで掻き乱し、
 するとその青白い光はUFOとなって飛び出し、
 部屋の壁にガンガンぶつかったあと、
 窓を破って外へ飛んでいった。
「いいの、あれ」
「よくはないけど、痒いから」

 夜の色の髪を生やしたことがないので、
 UFOが痒いということを初めて知った。
 UFOの行方は気になったけど、
 恋人のことがまた少し好きになった。
 とってつけたようだけど、
 そう思った。