超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

自由律俳句 百十一首

2012年~2017年に詠んだ自由律俳句百十一首です。

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まどろんであかぎれ見ている

暑い日に猫が子を産む

夕立鉢を動かす

墓場からベビーカー

墓の水が凍っている

冷えた手揉みながら猿のニュース見ている

遠くの池に遠くの雲が映っている

川のにおいと並んで歩く

伸び放題の夏草に影を食われる

洗った顔をまじまじと見る

曇りの朝の化粧のにおい

それぞれの部屋に戻る戸の音をきいている

できたばかりの水たまりを踏んでいく

ひげ剃る鏡にも雨が降っている

温かいものぶら下げた指先が冷たい

人をあきらめて遅い昼食

泣きたくないので爪を切っている

青い布団に寂しさが横たわっている

風が弾んで赤ん坊が笑っている

帰路の影がだらだら長くだらだらと長く

死んだ人の話しながら煎餅をくだいている

空のポスト閉まる大きな音だ

久しぶりの客から線香のにおいがする

あの猫は明朝体で鳴いている

車中から桜を見ているワイパーの音

初めての街の窓から犬に見つめられている

あの雲は箸じゃ切れない

夕暮の町がゴッホの色

ペン落としてベッドの下のひんやり覗く

死んだからすをからすが見ている見ていた

さよならばかりだ日曜の駅は

枯れたつつじに雨粒たわわに

人をあきらめて遅い昼食

最後の日に見たいような夕立

雨がバスをおしゃべりにする

猫くらいなでていいだろこんな週末

途中の犬かまうので歩きで行く

汗かいたペットボトルぶら下げて夏の公園

泣きたくないので爪を切っている

いつもの指がささくれていた

信号待ちのそれぞれに秋の風吹く

夜の駅で赤ん坊に手を振らせている

切った爪に蜜柑の色

喪中はがきを取り出してポスト空になる

低木の雪をふと掴んでみたくなる

教科書の雪の結晶に見とれていたのはいつのことだったか

夕日のほとりで街がさびしい

真顔で(笑)と打っている

川涸れたまま五月となる

お囃子がききたい酒の味である

よせやい青空の写真なんて

悲観に飽きて氷噛む

犬が嵐を叱っていた

ギターも小説ももうやめたらしい

種まきのような雨だった

色々な犬が似たような女連れている

液晶に照らされる顔が寂しい

夜雨長くて咳よく響く

しけた町へ帰るたぶん明日も

一人分の食器浸けておく水のぬるさ

忘れ物のような夜の雲一つ

留守番させていた鉢から芽が出た

寂しい指からハイスコアが出る

網戸の蛾が動いて月を見せてくれた

投げ出した足に日暮れの涼しさ

母になり帰ってきた人のお母さんぽいひざかけ

改札から雨の町へそれぞれの足跡

夜風の方へ列車が去る

ラジオのある枕辺にわかれの歌

いつもの家路に足音捨てていく

雨の朝の卵を茹でる

昨日今日の色々を洗濯機に放る

冷蔵庫の奥いのち腐らせ

疲れた胸にサイダー注ぐ

枯れていく花に物語添えてうぬぼれている

栞として挟んだ指そのままで花火眺めている

古いうちわに古い祭の名

図鑑のマンモスかっこいい来世マンモスがいい酒がない

見知らぬ犬になつかれて足首がぬくい

誰かにあげるはずだった本を売ってしまった

追い払った猫が振り返る

涸れた川から一羽飛び立つ

病院のテレビでひとり見る海

たたかわない手で酒をつぐ

美しい人が笑うチラシを丸める

ふと触れたコートに夜の冷たさ

涙の分呑んで早々に寝てしまう

柵錆びて野草ますます青い

寄せ書きでは収まらなかった

心乱されてちぐはぐのスリッパ

歩道橋の上 月少しだけ近い

くたびれた枝に肩つつかれる

温かい飲み物でポケットが重い

物置の造花が枯れそう

使い道のない空き箱に陽が満ちている

くたびれた町を眺めている熱湯3分

明日も雨らしい故郷の天気図

麦茶ぬるくしながら太陽が通り過ぎていく

一つ一つ並べた卵一つ一つ割っていく

夢の外に雨の気配

月に飽きて電気点ける

夜半の唇切れて血の味

誰がために膨らませているこのガム

遠くで皿が割れた

のど飴の匂いの愚痴を聞いている

雨が上がった良い本閉じる

一夜のために大きな皿買う

大げさに湯が沸き湯呑みは一つ

わかりあえなかった背中に古壁のキラキラ

不安あとからあとから煎餅噛む噛む

話し足りぬ孫残して祖母が旅立つ

象で行きたい広い空だ