超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

樹のこと

 早朝、近所の路地を、
 一本の樹が、
 うろうろ歩き回っていた。

 焦っているようだった。
 困っているようだった。
 樹液のようなものが滲んでいたが、
 脂汗だった。

 樹は、
 何かぶら下げていた。

 樹の、
 一番太い枝で誰かが首を吊っていた。
 
 樹は、
 これにうろたえて、
 助けを求めに来たらしい。

 樹が、
 動くたびに誰かが揺れた。

 樹のことだから、
 植木屋がいいと思い、
 植木屋の方を指さすと、

 樹は、
 ぺこぺこしながら路地を曲がり、
 やがて見えなくなった。

 何か気の利いた言葉をかけてやろうとしたが、
 何も思い浮かばなかったので、
 今日、このことをブログに書く時までに、
 考えておこうと思った。