超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

日記(水草)

7月6日

 浴衣の袖をまくって頑張ってみたが、結局金魚は一匹もすくえなかった。
「残念だったねぇ」
 屋台のおじいさんは一番大きな金魚を手渡してくれた。サービスなのだろうか。
「こんなに大きいの、いいんですか?」
 思わず尋ねたが、おじいさんはただニコニコと笑うだけだった。
 家に帰って金魚を鉢に移し、何か餌になるようなものを探している時、背後から視線を感じた。振り返ると、金魚が私をじっと見て口をパクパク動かしていた。浮かび上がるあぶくとともに、かすかに声のようなものが聞こえる。どうやら何か言っているらしい。あれ。金魚って鳴くんだっけ。不思議に思いながら近づいて金魚鉢に耳を当てると、金魚がおばあさんみたいな声で「好き好き好き好き」と繰り返していた。