超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

未練

 女と別れた。気持ちの面では、もう吹っ切れたと思っていたのだが、俺の右目だけはいつまで経っても未練たらたらで、俺の意思とは関係なく、女のいるらしい方に勝手にぐるぐる動き回るので、めまいがして仕方なかった。
 そんなことが数か月続いていたある日、いつものように忙しなく動いていた右目が、突然空を見上げ、そしてすぐに地面へと視線を落とした。何か嫌な予感がして、すぐに女と俺との共通の友人に連絡を取ってみると、案の定、数日前から女が飛び降り自殺を仄めかしていたと聞かされた。それから右目が動くたびに、ああ、今、女が色々な場所に運ばれているのだろうな、と考えると何とも言えない気持ちになった。手で右目を無理矢理押さえつつ家に帰り、その日は結局強い酒を呑んで寝てしまった。
 翌朝、目覚めると異変に気づいた。右目が真っ暗で何も見えない。慌てて眼科に飛び込み、すぐに診察してもらうと、医者に「右の目玉が真後ろを向いている」と言われた。