超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

連打

 近所のビジネスホテルの裏の路地に、「夢」という自販機が置かれている。何だかわからないもやもやしたものの詰められた瓶が並べられていて、その下には「過去」とか「女」、「土」、「歌」などと書かれたラベルが貼られている。「おやすみ前にどうぞ」という文句が添えられているので、ホテルを利用する人が寝る前に買っていくもののようだが、いつ見ても「死」のボタンに「売り切れ」のランプが灯っている。みんなそんなに「死」の夢を見たいのか、と少し驚いていたのだが、この前バイトの帰り、自販機の前に、どう見ても家のない感じのおじさんがいて、片手に小銭を一杯握りしめ、もう片方の手で「死」のボタンを連打しているのを見た。月のない夜だった。