トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

冬子(改稿)

 近所に住んでいた幼馴染の女の子は生まれた時から難しい病気で、それは足の方から肉が少しずつ剥がれ、その一枚一枚が蝶になって飛んでいってしまうというものだった。はじめのうちは二人とも、青白い顔の彼女の親や医者を横目に、その幻想的な光景を面白がっていたが、ある日私はそのことで父に叱られ、それから彼女を特別なものとして見てしまうようになった。
 小学校に上がると私には友達が増え、彼女と遊ぶ回数は減っていった。彼女の家は通学路の途中にあったから、寄ろうと思えばいつでも寄れたのだが、大人たちは彼女をとてもとても慎重に扱っていたので、彼女の家にいる間じゅう私はその監視の下に置かれ、とても窮屈な思いをさせられたので、新しくできた友達に彼女を紹介したりすることも何だかためらわれた。そのころには彼女は腰の辺りまで肉が剥がれてしまっていて、家の前を通ると時々、彼女の部屋の小さな窓から蝶がひらひらと飛び出してくるのを見て、私は何となくもやもやした気分になった。
 それでも彼女は唯一の友人である私に、しょっちゅう電話をよこしたが、学校にも行けず、一日じゅうテレビばかり観ていたので、彼女の話す内容はどうしても子供っぽくて、私は彼女と話すのが退屈で仕方なかった。中学校三年のある日、受験勉強をしていた私のところへ彼女から電話がかかってきて、当たり障りのない世間話のあと、ふいに彼女が「そういえば最近化粧の勉強をしている」と言ったので、もっと他に学ぶことがあるだろうと言うと、彼女は大笑いした。本当は、誰にも見せるあてがないのにそんなことしてどうするんだ、と思ったが、黙っていた。
 高校に上がる頃には通学路が変わり、彼女の家の前も通らなくなっていて、電話のやりとりもいつの間にかなくなった。時折人づてに聞く話では、彼女は私にずっと会いたがっているらしく、そういうことを耳にするたびに私は、色々なことを理由に彼女を避けている自分に負い目を感じたりもした。もはや彼女の体がどれほど病に侵されているかを知る勇気もないまま、年を経るごとに私には友達が増えて、ふとした拍子に恋人まで出来、そして彼らはみな楽しくて気の良い連中だったが、しかしもやもやした気分はいつも心の隅にこびりついて離れなかった。

 ある冬の晩、自分の部屋で音楽を聴いていると、窓の外をちらちらと光るものが飛んでいるのが見えた。よく見るとそれは一匹の蝶だった。彼女に違いないと直感した。慌てて窓を開けると、蝶はまっすぐ私の胸に飛び込んできて、何か言いたげに瞳をきょろきょろ動かしたあと、あっけなく息絶えた。その白い双羽には、子供っぽい、ピンク色の口紅の跡がついていた。