小学校三年生の時、将来の夢を発表する授業があった。
配られた小さな紙にみんなが夢を書き込む姿を微笑みながら見回っていた先生が、僕が想いを寄せていた女の子の手元を覗き込み、「××さんはお母さんになりたいんだ?」と言った。
「ううん、なりたくない」
彼女はそう答えた。
「なりたくないの?」
「うん」
「本当は何になりたいの?」
「お花屋さん」
「じゃあ、お花屋さんって書けばいいんだよ?」
「でも、お花屋さん、まだ食べたことないから、よくわかんないんだもん」
「……」
次の日から、彼女は学校に来なくなった。
あれから何年経っただろう。
今も僕は花屋で働きながら、彼女が来るのを待ち続けている。