超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

弔う象

 夜の動物園の闇の向こうに、袈裟を着たゾウが消えていく。今夜、何かが死んだのだ。
 しばしの静寂の後、遠くから暗闇を押しのけるように、地響きにも似た読経と、荒々しい木魚の音が響いてくる。
 サルはそっと耳を塞ぎ、ライオンは夢の中で狩りを続ける。目が覚めてしまった若いフラミンゴたちは、噂話に花を咲かせる。

 袈裟の下のあの丸い腹は、大きな木魚になっているらしい。
 それじゃ、あいつは自分の腹を叩いて経を唱えてるのか。
 タヌキだな、まるで。

 乾いた笑いが水面を揺らす。

 見に行くか?

 一瞬の沈黙の後、誰かがぽつりと答える。

 いや、いいよ。
 何かが死んだ。
 それだけわかれば充分だ。