超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

帰宅

 庭で死んでいた黒い鳥の、大きく開けられたくちばしの中を何気なく覗くと、粘ついた暗がりの中に人間の目があって、こちらをじっと見つめていた。
 目は何かを訴えるように二度三度まばたきをして、涙をぽろりとこぼした。

 ああ、これは妹の目だ。
 去年、飛行機事故で亡くなった妹の目だ。
 間違いない、そうだ、妹の目だ。
 現場からただ一人遺体が見つからなかった妹の目だ。
 私がそのことに気づいたその瞬間、くちばしの奥の目が笑ったように見えた。

 やがて頭上から妙な音が聞こえてきた。見上げると、無数の黒い鳥の死骸が塊になって、まっすぐ私に向かって落ちてくるところだった。