先生が頭をかきむしりながら、丸めた原稿用紙を畳の上に投げ捨てる。
この作品のために殺された先生の奥様の死体が、部屋の隅でまた少し腐っていく。
遠くで夕暮れの鐘が鳴っている。
壁に立てかけられた奥様の中からひょいと顔を出した蛆が、部屋に差し込む夕日に目を細めている。
長い時間が経つ。
先生は既にがっくりとうなだれ、力なく煙草をふかしている。
辺りはすっかり暗くなっている。
蠅も蛆も働き疲れたようで、すっかり大人しくなっている。
僕は立ち上がり部屋の電気を点ける。
先生は僕を睨みつけ、ゆっくり煙草をもみ消し、再び机に向かってペンを動かし始める。
その背後で奥様の死体が音もなく崩れ落ちるが、先生は気づいていらっしゃらない。
ふと見ると、奥様の影だけが壁に残され、先生をあざ笑うかのごとく、狂ったように手足をばたつかせている。
締め切りには間に合いそうにない。