超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

桃の皿

 久しぶりに友人の家に遊びに行った。
 居間で談笑していると、友人の母が盆を持って現れた。盆の上には三枚の皿があり、それぞれに切り分けた桃が盛りつけられていた。
 友人の母は私の前に皿を置き、「どうぞ」と優しい声で言った。
「ありがとうございます」
「ちょうど今朝、親戚から届いたのよ。ほら、あんたもどうぞ」
 友人の母はそう言って友人の前にも皿を置いた。
 会話を中断して桃を食べ始めると、友人の母は黙って立ち上がり、三枚目の皿を持って部屋の奥の襖を開けた。襖の向こうには狭い部屋があり、暗がりの中に仏壇が置かれているのがわかった。
 少し驚いて、友人にそっと「誰か亡くなったの?」と尋ねようとしたその時、仏壇の遺影が、目の前の友人のものであることに気がついた。
「暗くなる前に帰るのよ、必ず」
 暗がりから友人の母の声が聞こえた。