超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

フライング

 町で一番高いビルの屋上から、帰る家のない男が飛び降りた。
 春の明け方の出来事だった。
 サイレンの音と光が近づいてくる中、どこからかわらわらと湧き出てきた野次馬の誰一人として、男の背の上で、羽根のちぎれた蝶が泣いていることに気づく者はいなかった。