超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

水と火

 あのバケツですか?いえ、雨漏りじゃありませんよ。
 バケツの前に女性の絵が飾ってありますでしょう?
 彼女が毎晩毎晩涙を流すので、それを受け止めるためにああして置いているんです。
 はじめのうちはいちいちモップで床を掃除していたのですが、あまりにも涙の量が多いもので、バケツに溜めて翌朝捨てた方が早いだろうということになりまして、ええ。
 はい、そうです。
 あの絵は、旦那様がお描きになったものですよ。
 ……殺されたお嬢様の……え?
 ああ、いえいえ、違います。
 あの絵に描かれているのはお嬢様ではありません。お嬢様を殺した女の方です。