超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

エッグ

 明け方頃、壁に張り付いていた繭の内の一つが割れた。
 中から現れた湿った小指は、ぽとりと小さな音を立てて床に落ちた。
 右手の小指だ。
 慎重に拾い上げてケースに納める。
 これでやっと両方の掌が揃った。
 しかしまだまだ先は長い。
 分娩室いっぱいに張り付いた大量の繭を前に、僕は「妻」の細い腰をぎゅっと抱き寄せた。