超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

その後

 眠れなかったので羊を数えてみた。
 半信半疑だったのだが思った以上に効果てき面で、よく眠れたのはよかったのだが、柵を飛び越えた後の羊たちをどこへ向かわせるのかということまでは考えが及ばなかった。
 翌朝、目を覚ますと、家の周りが何だか騒がしいことに気づいた。
 カーテンを開けて外の様子を窺ってみると、アパートの前に救急車が停まっており、隣の部屋に住んでいる中年の男が救急隊員に羽交い締めにされながら、何かを大声で喚いている。
 おとなしそうな人だったのに何が……と驚きながらそっと耳を澄ましてみると、隣人は「頭の中で羊の群れが暴れている」というようなことを叫んでいた。
 彼が無理矢理押し込まれた救急車が走り去っていくのを見送りながら、今夜もまた俺は眠れないのだろうと思った。