超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

皮と風

 ほとんど食べ残された私の皮が、すっかり萎んで流し台に捨てられている。
 同じ家にいるはずなのに、もう三ヶ月も彼と顔を合わせていない。
 今日も私は出来たばかりの皮を剥ぎ、彼の使っているお箸を添えて、彼の部屋の前にそっと置く。
 物音一つしない家の中は、一人でいた時よりもずっと静かで寂しい。
 そろそろ公園から人がいなくなる時間帯だ。
 出かける支度をして、後ろ手に玄関のドアを閉め、新しい皮を作るために、木漏れ日を浴びに行く。
 剥き出しの肉に、夏の風が心地好い。