超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

腕と光

 私の左腕は夜になると光り出す。
 それは暖かい朝の光だ。
 耳を当てれば市場らしき喧噪や子どもたちの声、そしてかすかに波の音が聞こえてくる。
 どうやら私の左腕の皮膚の下は、誰かの気まぐれによって、どこか遠い国とつながっているらしいのだ。
 左腕の中で風が吹くと、果物や女の匂いが鼻をくすぐる。
 雨の音がする日には、子どもの泣き声や猫が喉を鳴らす音が聞こえてくる。
 だから寂しい夜には、私は家中の剃刀や包丁を隠して眠る。