超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

鯨とイソギンチャク

 胸に造花を飾った鯨が体育館をゆっくり泳ぎ回りながら、低く張りのある声で堂々と送辞を述べている。
 体育館には卒業生たちのすすり泣く声が聞こえ始め、やがて鯨の目からこぼれた涙とともに、万雷の拍手が響き渡る。
 その音を遠くに聞きながら、イソギンチャクは保健室のベッドに腰かけ、すっかり萎びた触手をわずかに動かして、小さな小さな拍手を送る。