ベッドの上の俺を優しく力強く締め上げながら、ナースキャップをかぶったその大蛇は、しなやかな尾の先でそっと病室の電気を消した。
ブラインドの隙間から差し込む月の光を受けて、闇の中に美しい牙が浮かんでいる。
「ちょっとチクッとしますよ」
大蛇はハーブティーの香りのする声でそうつぶやき、俺はゆっくりと頷く。
数秒の静寂の後、細く冷たい感触が首に刺さった。
大蛇が大きく息を吐き、俺を締め上げていた力を少し緩める。
「この後は」
俺は大蛇に尋ねる。
「僕はあなたのお腹の中ですか?」
「いえ、私の仕事はここまでですよ。後は……」
大蛇は病院の廊下の方へ大きく首をもたげ、
「……先生が」
と続けた。
耳を澄ますと、遠くからきびきびとした足音が近づいてくるのがわかった。
主治医の若ハゲだろう。
徐々に朦朧としてくる意識の中で、俺は大蛇に言った。
「……次はネズミに生まれ変わって、会いに来ます」
「それじゃ腹の足しにもなりませんわ」
「……じゃあ、牛かな」
「ふふ、今度はちょっと大きすぎ」
「……じゃあ……」
大蛇は冷たい鼻先で俺の唇を塞ぎ、囁いた。
「人間に生まれ変わって、また会いましょう?今度は病院じゃない場所で。そうしたら私も……」
大蛇が何か言いかけた時、病室のドアが勢いよく開いた。
主治医の低い声とともに部屋の電気が点き、俺の視界は闇に包まれた。