超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

急ぎ足

(夜中の2時頃。とある交差点。信号が赤に変わり、そこへ一台の車がやってきて止まる。)
(運転手がぼんやり信号を待っているところへ、目の前の歩行者用信号が青に変わり、女の生首がゆっくりと横断歩道を渡っていく。)

……あいつ、ここのところ毎晩見るなぁ。

(頬の肉も目玉も落ち、うじが湧いているような状態にも関わらず、女の生首はずるずると湿った音を立てながら、どこかを目指して夜の闇の中へ消えていく。)

……あいつ、すごい執念だなぁ。

(自動車用信号が青に変わる。車が走り去る。)

(翌日。)
(夜中の2時頃。とある交差点。信号が赤に変わり、そこへ一台の車がやってきて止まる。)
(運転手がぼんやり信号を待っているところへ、目の前の歩行者用信号が青に変わる。)

……あいつ、今夜は来ないのか。

(自動車用信号が青に変わる。車が走り出す。)

……あ。

(交差点から少し離れた場所にある歩道橋の階段を、女の生首が必死にのぼっている。)

……何だか知らないけど、今夜は急いでるみたいだなぁ。

(歩道橋の下を車が走り去る。)
(女の生首が目指す方向から、救急車のサイレンの音が響いてくる。)